研究倫理の中でも、現実問題として人間関係で厄介になりがちなのが「誰を著者に含めるか?」というauthorshipの問題です。
グローバルヘルスの領域では、ほかの分野に比べてもかなりその適用について厳しく、いい意味で意識の高い分野なのではないかと思っています。ですが、それにも少しきっかけともなったような論調があるんです。
今回はその契機として大きな役割を果たしたLancet Global HealthのEditorialを少し解説してみたいと思います。
引用論文
The Lancet Global Health. Closing the door on parachutes and parasites. Lancet Glob Health. 2018 Jun;6(6):e593. doi: 10.1016/S2214-109X(18)30239-0. PMID: 29773111.
要旨
「外部からぽっとやってきて、現地の環境や人材、インフラを活用して、さっさと帰国して権威ある学術雑誌に研究を投稿するような『パラシュート研究者』はだれしも望まないものだ」としたうえで、本誌は単刀直入にこう切り込む。
At The Lancet Global Health, we look extremely unfavourably on papers submitted by authors who have done primary research in another country (particularly a low-income or middle-income country) but not included any author from that nation.
ほかの国で実施した研究であるにも関わらず、当該国の著者が含まれていない論文について、我々は厳しい目を向けざるを得ない。
For research involving patient recruitment, treatment in existing facilities, and follow-up, the notion that no locally based individuals made a “substantial contribution” (per authorship criteria) to the acquisition of data is pure fiction.
患者がいる研究で、現地の人が(オーサーシップに値する)”実質的な貢献”が一切なかったといえるような研究はまさしく虚構であるといわざるを得ない。
その後、議論は他国の「2次データの利用」へと展開していく。
ここでは、「オープンなデータが解析されるのはよいことだ」という主張から「現地の状況を分かっていないうわべだけのデータ解析は無意味だ」などといった意見まで幅広い議論がAdvisory Boardから上がったとしている。
解説
このような背景があることから、グローバルヘルスの分野では強く「ギフトオーサーシップ」への懸念が出されることとなりました。
Gift authorshipとは、「著者相当の貢献がないにもかかわらず、著者として研究成果に名を連ねること」です。先述の発表を受け、研究実施先のメンバーを入れることがLancet Global Healthへの投稿の1つのローカルルールとして設定されたことから、ただ単に「名義借り」をすることが意義を持つようになりました。そのようなことは防止しなければならないという意識の下、グローバルヘルスの分野ではGift authorshipを防止するための策がいろいろな場面でとられています。
例えばですが、日本のグローバルヘルスをけん引してきた学会である日本国際保健医療学会では、2019年の学術大会にて、学会誌「国際保健医療」への投稿に関する倫理規定などを解説するシンポジウムを一番大きい会場を押さえて実施しました。さらに、どれだけ短いレターなどであっても、”Author Contribution(著者役割)”を明記するようになっています。私たちが発表したレターでも、和文英文問わずそのような記載が求められており、実際出版物にはその項目が掲載されます。
日本で問題になりがちなのは、「論文を書くとき、だれを共著者に入れるか」です。慣例として、ラボの先生で、特に偉い先生などは共著者に名前を連ねることもあったと聞いています。しかし、著者となるためにはその研究に対する一定の貢献が求められています。その基準がすでに示されており、それに合致しない場合は原則として著者に名前を連ねてはいけないことになっています。
ですが、authorとまではいかなくとも研究に貢献した人たちがいるかと思います。そのような方々については、「謝辞/Acknowledgments」に記載することが求められています。これで、貢献を明確に示すことができるのみならず、その著者についての検索をした際、謝辞として記載された論文が検索で見つかる可能性も出てきます。
ほかにも、研究グループをコンソーシアムとして記載する方法があります。
例えばですが、こちらの論文。
Lukies, M. W., Watanabe, Y., Tanaka, H., Takahashi, H., Ogata, S., Omura, K., … & Osaka University Twin Research Group. (2017). Heritability of brain volume on MRI in middle to advanced age: A twin study of Japanese adults. PloS one, 12(4), e0175800.
Last authorとなっているOsaka University Twin Research Groupは、いわゆるコンソーシアムとなっており、通常は謝辞にその該当者についての記載があります。
Osaka University Center for Twin Research consist of Yasufumi Kaneda, Kazuo Hayakawa, Yoshinori Iwatani, Jun Hatazawa, Mikio Watanabe, Chika Honda, Norio Sakai.
絶妙に標記が違うのが気になるところですが、このコンソーシアムに該当する研究者の名前をこのように記載します。
このような方式では、このコンソーシアムに属する著者にはauthorshipは付与されませんが、貢献を示すことができているわけです。
実際にauthorshipが発生するような貢献をした場合には、このコンソーシアムに加え、自身の名前をauthorに入れることで貢献度を表すことも可能です。
いずれにせよ、事前にauthorshipに関する取り決めを確定させたうえで研究に取り掛かり、後から揉めないような枠組みを作っておくのが望ましいかと思います。