2020年11月、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会、日本渡航医学会、国際臨床医学会の4つのグローバルヘルスに関連する学会が合同で「グローバルヘルス合同大会2020大阪」という大規模な学術集会を開催しました。
その中のシンポジウムで、4学会合同の学生シンポジウムを実施する機会があり、企画者と共同座長を務めました。そのシンポジウムに関しての内容は、前回の投稿で紹介しました。
この論文と隣り合わせに発表する機会を得たのが今回ご紹介する論文です。
ロンドン大学(University College London)医学部医学科の島戸さんに書いていただきました。
イギリスではコロナの中でもボランティアとして積極的に活動し、活躍していました。なぜそのようなことが可能だったのか?考察してもらいました。
引用論文
島戸 麻彩子 & 佐伯 壮一朗. COVID-19における医学生のボランティア活動~イギリスの事例から見る医学教育の展望~. 国際保健医療 35, 261-263, doi:10.11197/jaih.35.261 (2020).
(リンクで論文先に飛べます)
要旨
日本語のレターなのでぜひ本文をお読みいただければと思いますが、簡潔に言えばイギリスと日本の医学部の対応が違ったポイントは2つです。
1つ目は、医学部自体の対応。
イギリスでは医学部や医学部の連合がしっかりと学生とコミュニケーションをとり、さらには精神面の配慮まで積極的に行っていたことがうかがえます。
2つ目は、医療従事者を取り巻く社会環境。
今でこそ医療従事者への対応は寛大になったものの、パンデミックの初期では医療従事者であるというだけで差別があったり、のけ者にされたような事例もありましたが、イギリスではとても早い段階から医療従事者を応援する社会基盤が構築されていました。
日本もこのようなイギリスのグッド・プラクティスを参考に、より医療従事者や医学生が活動できるような環境整備を求めました。
書けなかったこと・言えなかったこと
今回の論文は、島戸さんにとっての初めての出版論文となりました。おめでとうございます!
イギリスの事例を見ていると、日本との対応の差に非常に驚く部分も大きかったです。特に、医学部の教員らが学生が活動することを積極的にサポートするという取り組みは非常に特徴的であっただろうと思います。
やはり医学生は何をしようにも「医学生」という看板は背負いますから、自ら率先して行動することは日本では難しい状況がありました。
特に、2020年前半に発令された初めての緊急事態宣言では、「いつ、私たちも現場に戻れるか(駆り出されるか?)わからない」という状況でもあり、とても緊張感を持ちながら毎日を過ごしていた記憶があります。
医学生はやがて医師になり、現場に出るわけです。
パンデミックが収まろうとも、コロナが撲滅されるわけではないと思います。
そのときにどのように対処をするのか、また災害時の医療ではどう対応をするのか、そのような現場経験を積むことが出来なかったことに対しては、少し不安感もあるのは事実です。
もちろん、緊急事態宣言の中では特に、実習がオンラインに切り替わるなど様々な特例対応がありましたから、そこでのビハインドに関しての不安もあります。
災害大国日本は、このような世界的なパンデミックのみならず、地震や台風、火山噴火などといった自然災害の多い国でもあります。
私たちの医師生活の中で、そのような災害対応をする機会は必ずやあるものと思われます。
今の経験が今後に生かせるよう、何とかできないものかと忸怩たる思いです。
また、今回のパンデミックで興味深かったのは、イギリスではみんなが協力して動いたにもかかわらず、日本ではフットワークが軽く実力のある人たちが個人として動いていた、という点です。
私たちのシンポジウムに登壇してもらった人たちもそうだったのですが、団体として活動するというよりは、一匹狼として戦っていた印象を受けました。国際協力などの団体が多数あれど、日本の危機であるCOVIDの中ではそのような枠組みが機能しなかったということを考えると、どのようにしてこのような非常事態に準備しておくべきなのか、とても悩ましいともいえるかと思います。
参考となる資料など
今回の論文の内容は、日本国際保健医療学会西日本地方会、東日本地方会、日本WHO協会関西グローバルヘルスの集いなどで一部紹介しています。
日本WHO協会関西グローバルヘルスの集いでは、島戸さんのプレゼンテーション資料がご覧いただけるかと思いますので、ご興味があればぜひそちらで詳細をご確認ください。